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「有能な自分」が信じられない:通称インポスター症候群とは?

  • 8月6日
  • 読了時間: 21分

更新日:8月7日

はじめに:どんなに周囲が高く評価しても、自分が偽物のように感じるとき


 インポスター現象(俗称インポスター症候群)とは、客観的な実績があるにもかかわらず自分を「知的詐欺師」のように感じ、成功を実力ではなく運やタイミングに帰属させる心理状態であり、高達成者の約70%が経験すると推定されています(Clance & Imes, 1978)。

 1978年に心理学者ポーリン・R・クランスとスザンヌ・アイムスが提唱したこの概念は、精神疾患の診断基準であるDSMには掲載されておらず、医学的な「疾患」ではなく、誰もが置かれうる状況下で生じる普遍的な「現象」または「感情」として専門家の間では位置づけられています。

 具体的には「周囲は高く評価してくれるのに、自分ではどうしても実力だと思えない」「いつか『偽物』だと見破られるのではないかと不安でたまらない」と、輝かしい実績を上げているにもかかわらず、心の中ではまるで詐欺師・偽物(インポスター)のような後ろめたさを感じてしまう心理状態です。アインシュタイン、テイラー・スウィフトやトム・ハンクス、ミシェル・オバマなども公言しており、特定の個人に限った問題ではありません。


 しかし、この現象を単なる「自信のなさ」と切り捨ててしまうのは早計です。


 色々と誤解の多い俗称「インポスター症候群」について、ABEMA「わたしとニュース」にてコメントをしたことをきっかけに、取材では説明しきれなかったことも多くありましたので、記事にしました。


この記事の要点

1.インポスター現象は「病気」ではない:医学的な疾患や障害ではなく、専門的には「現象(Phenomenon)」と呼ぶのが適切です。


2.個人の特性だけでなく「環境」が影響する:個人の脆弱性と、心理的安全性の欠如などの環境的トリガーの相互作用で生じます。


3.自己疑念は「情報不足への反応」の場合がある:曖昧な評価やフィードバックの欠如により、自分の実力を判断する社会的データが不足している可能性があります。


4.マイノリティには構造的プレッシャーが加わる:ステレオタイプの脅威やロールモデルの欠如、所属感を削ぐ構造が自己不信を増幅させることがあります。


5.克服の鍵は「自信」より「心理的柔軟性」:不安を無理に消すのではなく、不安を抱えながら価値ある行動を選択することが重要です。


6.「インポスター化」に注意する:組織の構造的問題を個人の自信の問題へすり替えない視点が必要です。

目次

·  結論

インポスター現象(インポスター症候群)とは何か

正式な呼称

インポスター現象(Impostor Phenomenon)

俗称

インポスター症候群

定義

1978年に心理学者のポーリン・R・クランスとスザンヌ・アイムスによって提唱されました。客観的には成功を収めているにもかかわらず、自身の能力を信じられず、成功を「運」や「タイミング」といった外的要因に帰属させ、自分を「知的詐欺師(インポスター)」のように感じる心理状態を指します。

医学的位置づけ

精神疾患の診断基準であるDSMには掲載されておらず、医学的な「疾患」ではありません。

発生の基本式

インポスター現象 = 個人の脆弱性(完璧主義等)× 環境的トリガー(心理的安全性の欠如等)


 高達成者の約70%が、人生のいずれかの時点でこの現象を経験すると推定されています。特筆すべきは、これが初心者に限ったことではなく、キャリアの全段階(若手からエグゼクティブまで)において発生するという点です。

 繰り返しになりますが、インポスター現象は個人の欠陥ではなく、有能な人材が特定の構造的プレッシャーに晒された際に生じる反応です。


インポスター現象についての6つの重要ポイント


1. インポスター現象は病気ですか? 


 インポスター現象は医学的な疾患でも障害でもなく、治療して排除すべき病理ではありません。重要なのは、これを固定的な欠陥としてではなく、有能な人材が新しい挑戦に直面した際に生じる一時的な心理反応として理解することです。「症候群」という語が定着しているため病気と混同されやすいですが、専門的には「現象(Phenomenon)」と呼ぶのが適切です。


2. なぜ有能な人ほどインポスター感情を抱くのですか?


産業組織心理学では、インポスター現象の発生を次の相互作用として定義しています。

インポスター現象 = (個人の脆弱性:完璧主義等) × (環境的トリガー:心理的安全性の欠如等)


 つまり、個人の資質以上に、その人が置かれた「組織環境」がこの現象を増幅させているのです。特に、一人ひとりの勝ち負けが強調される「ゼロサム的」な競争文化や、優れた他者と自分を常に比べる「上方社会的比較」が推奨される職場では、有能な人ほどインポスター現象の罠に陥りやすくなります。なぜなら競争的な文化では、常に「自分より優れた他者」を基準にするため、自己不信が定常化するためです。


 インポスター現象は、はじめ研究職の女性に見られる現象として認識されたこともあり、女性特有とのレッテルを貼られているという経緯もあります。そのうえで、近年では、「女性を『直す』のではなく、女性が働く『場所』を直すべきだ(Fix the workplace, not the women)」という構造的な批判が強まっています。


あなたの不安は、個人の欠陥ではなく、不適切なシステムが生み出した「システムへの不適応反応」かもしれないのです。


インポスター現象を増幅・緩和する組織環境

環境要因

IPを増幅させる環境(リスク)

IPを緩和する環境(成長の土壌)

組織文化

過度な競争、ゼロサムゲーム、完璧主義の推奨

心理的安全性の確保、学習・成長指向

社会的比較

「優れた他者」との比較(上方比較)の強調

過去の自分との比較、チーム貢献の重視

フィードバック

曖昧で一貫性のない、または結果のみの評価

具体的、かつプロセスに基づいた助言

心理的安全性

弱みを見せると評価が下がる、疎外感がある

失敗を学習の機会として共有・歓迎する文化


3. 「自分は詐欺師だ」という疑念は、単なる認知の歪みですか?


「自分は詐欺師だ」という思い込みは、客観的事実としては「誤り」です。しかし、哲学者Katherine Hawley(2019)が指摘するように、論理的な推論としては「正当化される」場合があります。例えば、上司から賞賛も批判も与えられない「沈黙の環境」に置かれた場合を考えてみましょう。自分の実力を正確に測るための「社会的データ」が欠如しているため、情報が真空状態となります。

この状況で、「自分が今ここにいられるのは、単に運が良かっただけではないか?」と疑うことは、手元の限られた情報から導き出される一つの合理的な推論になり得ます。つまり、インポスター現象は単なる「認知の歪み」ではなく、周囲との関係性やフィードバックの欠乏に対する、知性ゆえの反応という側面があるのです。自分を責める前に、判断材料が適切に与えられているかを客観視する必要があります。


4. 女性やマイノリティは経験しやすいのですか?

 インポスター現象は、特定の人口統計的グループにおいて、より顕著に現れることが統計的に示されています。ソフトウェアエンジニアを対象とした調査では、白人エンジニアの経験率が50.0%であるのに対し、女性では60.6%、アジア系では67.9%、黒人では65.1%と、マイノリティ層で明らかに高い割合を示しています(Guenes,2023)。これは、彼らが以下のような過酷な構造的プレッシャーに晒されているためです。


·  ステレオタイプの脅威:「自分のグループ全体の能力を代表している」という過度な責任感。「自分の失敗が、グループ全体の無能さを証明してしまう」という過度な責任感が、自己不信を増幅させます。


·  ロールモデルの欠如:周囲に自分と似た成功者がいないことによる疎外感。差別や排除によって感じる「居場所のなさ」が、単なる個人の不安(インポスター信念)と混同されがちであるが、それは構造的な不公正に対する反応である場合も少なくない。「自分が偽物だ」と感じる背景には、その場に「属している感覚」を削ぐような、社会的なバイアスや排除の構造が隠れている可能性があるのです。


構造的なプレッシャーはあるものの、女性やマイノリティの問題として限定してしまうことは問題を女性やマイノリティに押しつけることになるので注意しましょう。


5. 「もっと自信を持つ」ことが対処法になりますか?


 インポスター現象への対処として「もっと自信を持とう」というアドバイスは、往々にして逆効果になります。無理にポジティブになろうとすることは、かえって自己否定を強めてしまうこともあるからです。まだまだエビデンスは足りませんが、不安を排除しようとするのではなく、それを受け流しながら価値ある行動を選択する「心理的柔軟性(Psychological Flexibility)」を高めるアプローチも注目されています。


 インポスター現象は、個人と組織の相互作用で起きる現象です。個人の自信で克服するという発想は、問題を個人の責任に回収してしまい、不十分な戦略であることも忘れないようにしてください。


 他にも、個人の生活環境における「保護因子」の存在が知られています。既婚者や子供がいる個人は、安定した人間関係が検証の源泉となり、インポスター現象の影響を緩和する傾向が確認されています。


6. 「インポスター化(Impostorization)」とは何ですか?


 近年、英語圏の主要メディア(HBR、New Yorker等)では、インポスター現象という言葉が、組織内の構造的問題を「個人の自信の問題」へとすり替えるラベルとして使われていることへの批判が高まっています。これを"Impostorization"(インポスター化)と呼びます。

 ここで極めて重要なのは、「アウトサイダー(疎外感)」と「インポスター(認知の歪み)」を明確に区別することです。


·  周囲に自分と似た属性のロールモデルがいない「所属脅威」や、情報共有からの除外(職場での疎外感)がある環境において、「自分はここにふさわしくない」と感じるのは、認知の歪みではなく環境の不備に対する正当な反応です。


·  真の問題は「自信がない個人」ではなく、採用・昇進・所属感における構造的なバイアスや排除のメカニズムにあります。


 繰り返しになりますが、「女性やマイノリティを直そう(Fix the women)」とするのではなく、「女性やマイノリティが働く場所を直す(Fix the places where people work)」ことこそが、現在求められている人的資本経営としてのD&Iの本質です。


 以上見てきたように、インポスター現象は単なる「個人の自信のなさ」ではありません。それは、特定の個人の特性と外部環境が衝突した際に生じる、「システムへの不適応反応」であり、組織の生産性を阻害する重大なリスク因子という側面を忘れてはなりません。個人の視点としては、高達成者が特定の状況下で経験する「現象(Phenomenon)」あるいは「感情」であり、むしろ高度な挑戦を続けている証拠としてとらえることが大切です。


インポスター現象を生む4つの心理的特徴

インポスター現象の中核には、客観的な実績と主観的な自己評価の間の激しい乖離があります。この心理的葛藤は、組織のパフォーマンス指標である「SPACEフレームワーク(満足度、パフォーマンス、活動量、コミュニケーション、効率性)」の全次元に悪影響を及ぼします(Bravata,2020)。心理学的な分析(藤江, 2009)は、この現象を経験しやすい人の特徴を、以下の4つにまとめています。


1.成功の外的・不安定要因への帰属:自分の達成を実力(安定的・内的要因)ではなく、運やタイミングといった自分では制御不能な「外的な不安定要因」によるものと解釈する。


2.能力への自信の欠如(内的評価の拒絶):客観的な証拠(昇進、表彰)を示されてもそれを内面化できず、失敗については「実力の欠如」という安定的・内的要因に帰属させる歪みを持つ。


3.無能さが見破られることへの恐怖:「他者に無能さが見破られるのでは」という不安とはつまりいずれ自分は他者の期待に応えられなくなるという恐怖を強く抱えています。そのため成功したことを自分で認めてしまったら、さらに高い要求を課され、他者の期待に応えきれなくなるのではないかという恐怖を感じてしまうので、成功を自分の能力として認められなくなるのです。


4.非現実的な高い基準(完璧主義):自分に極めて高いハードルを課し、わずかなミスも「完全な無能の証拠」と見なします。これらの因子は「不安のループ」を形成します。自身の対処能力を過小評価し、失敗を恐れて「過剰な準備」あるいは「先延ばし(セルフ・ハンディキャッピング)」に走ります。仮に成功しても「死ぬほど準備したから助かっただけだ」という認知が働くため、成功体験が自信に変換されず、次の挑戦に対する不安がさらに増大するという悪循環に陥るのです。


組織ができる3つの介入


インポスター現象への対策は、一部の従業員への福利厚生ではなく、高ポテンシャル人材の流出を防ぐ「リスク管理」であり、経営戦略そのものです。


1.心理的安全性の構築とリーダーの脆弱性:失敗を学習の機会とする文化を醸成します。特にリーダー自らが自らの脆弱性や「かつて感じたインポスター感情」をモデルとして示すことは、組織内の沈黙を破り、心理的ハードルを下げる強力な介入となります。


2.メンターシップによる「正常化」:経験豊富なメンターとの対話を通じて、インポスター現象を「誰もが経験し得る正常な反応」としてノーマライズし、孤立感を防ぎます。


3.評価制度の透明化:曖昧なフィードバックはインポスター現象の温床です。具体的な成果基準と、プロセスに対する透明性の高い評価を導入することで、成功を「運」ではなく「自分の行動の結果」として認識できる環境を整えます。


組織と個人の双方向からアプローチを揃えることで、才能が搾取されず、能力が正当に発揮される「SPACEフレームワーク(Aparna,2020)」の高水準な維持が可能となります。


個人ができる3つの対処法

 個人ができる対処法は、単なるポジティブ思考ではなく、自身のパフォーマンスを最大化するための「戦略的スキル」です。これらの技法は個人のウェルビーイングのみならず、組織のSPACEフレームワークにおける「生産性」と「効率性」に寄与します。


1.認知再構成法と「Achievement Log」の活用:自分の思考の癖を客観視します。具体的には「達成ログ(Achievement Log)」を継続的に作成し、成功の要因を自分の努力やスキルという安定的・内的要因に結びつける練習を行います。


2.セルフ・コンパッション:自分を厳しい批評家としてではなく、親しい友人を励ますように扱う技法です。これにより、完璧主義による過剰な自己批判を緩和し、心理的リソースの枯渇を防ぎます。


3.マインドフルネス:自己疑念を排除しようと格闘するのではなく、それらを「ただの思考」として距離を置いて観察し、価値ある行動を優先する「心理的柔軟性」を養います。

これらのスキルを習得することで、自己疑念に浪費されていたエネルギーを、本来の業務遂行やクリエイティブな活動へと転換することが可能になります。


達成ログ(Achievement Log)の付け方


 インポスター症候群に対処するための「達成ログ(Achievement Log)」には、単にできたことを羅列するだけでなく、自分自身の思考パターンを客観視し、客観的な事実に基づいて極端な自己評価を修正していくことで、成功を自分の実力として受け入れる(内面化する)ための情報を記録することではじめて意味をなします。

 とはいえ、記録をつけることがプレッシャーになりそうな人は、まずは小さな達成や、人から褒められた事実をそのまま書き留めることから始めてみるのがおすすめです。


達成ログに記録する4項目


1.達成したことや有能さを示す「客観的な証拠」:自分が成し遂げたタスク、プロジェクトの成功、他者から受けた具体的な評価などを記録します。インポスター感情を持つ人は成功を過小評価したり無視したりする傾向があるため、自分の能力を示す「具体的で客観的な証拠」として事実を可視化することが重要です。これにより、成功を外部の要因(運など)ではなく、自分の実力として内面化しやすくなります。


2.インポスター感情の引き金(トリガー)となった出来事:どのような状況や出来事に直面したときに、「自分は偽物だ」「能力がない」といった自己疑念(インポスター感情)が湧き上がったのかを記録します。これを記録することで、自分の感情がどのような条件で引き起こされるのかというトリガーを認識できるようになります。


3.湧き上がった自分の「思考パターン」:自己疑念を抱いた際、「100%完璧でないから失敗だ(全か無かの思考)」「今回は運が良かっただけだ(ポジティブな要素の軽視)」など、どのようなネガティブな自動思考や認知の歪みが生じていたかを観察して書き出します。


4.事実に基づいた「現実的な自己評価(反証)」:自分が抱いている「自分には能力がない」という信念を裏付ける証拠と、それに反する証拠(記録した達成の事実など)を照らし合わせて検証します。その上で、極端な自己卑下を修正し、よりバランスの取れた現実的な自己評価を書き込みます


達成ログの具体例

プロジェクトの完了

事実

担当していたソフトウェアの機能追加を、期限内にバグなしでリリースできた。

思考の癖

「簡単なタスクだったから誰でもできたはずだ」と、ポジティブな客観的証拠を割り引いて考えた(軽視した)。

現実的な評価

コードレビューを問題なく通過し、予定通りに高品質でリリースできたのは、自分の専門スキルとスケジュール管理能力がある証拠だ。


新しい役割・マネージャーへの抜擢

事実

新規プロジェクトのリーダーに指名された。

思考の癖

「他にやる人がいなかっただけだ」「すぐに実力不足が見破られてしまう(詐欺師の恐怖)」と感じた。

現実的な評価

経営陣は私の過去の実績を評価して選んだ。最初から完璧なリーダーはおらず、自信のなさは新しい挑戦に対する「正常な反応(成長のサイン)」である。


修正や指摘を受けた時(失敗の捉え直し)

事実

提出した資料に対して、いくつか修正の指摘を受けた。

思考の癖

「少しでも指摘されたから、この仕事は完全に失敗だ(全か無かの思考)」「やっぱり自分は無能だ」と極端に解釈した。

現実的な評価

指摘されたのは資料の一部であり、全体としては要件を満たしている。フィードバックは学習と成長のための正常なプロセスであり、私の能力全体を否定するものではない。


プレッシャーのかかる状況での対応

事実

クレーム対応や緊急のトラブルに直面し、無事に状況を収拾できた。

思考の癖

「マニュアルがあったから対応できただけだ」と自分の実力を否定した。

現実的な評価

マニュアルがあってもパニックになる人はいる。冷静にルールを適用し、関係者を安心させたのは自分のコミュニケーション能力とストレス耐性のおかげだ。


専門家に相談する目安

インポスター現象が以下のような深刻なメンタルヘルス疾患の「危険信号」が見られる場合は、臨床心理士や精神科医などの専門家への相談が不可欠です。


メンタルヘルス上の危険信号


·  強烈な抑うつ状態、慢性的な意欲の低下。

·  慢性的な不眠、パニック発作、極度の社交不安。

·  燃え尽き症候群(バーンアウト)の併発。

·  セルフヘルプでは改善せず、業務遂行に実害が出ている状態。


業務遂行に実害が出ている5つの状態


1.「過剰な準備」と「先延ばし」の繰り返しによる、業務効率・生産性の著しい低下:失敗や無能さの露見に対する強い不安を和らげるため、一つの資料作成やタスクに対して非現実的な時間とエネルギーを投入する「過剰な準備」を行っている。あるいは、失敗への恐怖そのものからタスクへの着手を遅らせる「先延ばし」を行っている。これらのことで業務効率・生産性が落ちている時。


2.昇進や困難な役割の辞退による、組織の人材配置・キャリア開発の停滞:インポスター感情が「内なる障壁(Inner barrier)」となり、自分の実力が見破られるリスクを避けるため、目立つプロジェクト(Visible projects)への参加を避けたり、昇進の打診や難易度の高いアサインメント、リーダーシップ職のオファーを自ら辞退・回避しているとき


3.「無能さの露見」を恐れることによる、周囲への援助要請(相談)の拒絶とトラブルの深刻化:「わからないことを質問したり、チームに助けを求めたりすると、自分の無能さが周囲にバレてしまう」という強い恐怖から、自力で解決できない業務上のボトルネックやバグ、トラブルを抱え込み、同僚との効果的な協働やサポート要請を拒んでいる状態。これにより、問題が表面化したときにはすでにプロジェクト全体に致命的な遅延や損害が発生している、という組織的な実害に繋がりそうであったり、実害を出しているとき


4.リーダー・管理職における「意思決定の遅れ」と「権限委譲(Delegation)の機能不全」:管理職やプロジェクトリーダーなどの立場にある個人が強いインポスター感情に支配されると、「自分の判断が間違っていれば詐欺師だとバレる」という恐れから意思決定を極端に躊躇するようになります。さらに、他人に仕事を任せて失敗されることを恐れたり、自分の存在意義を証明しようとしたりするあまり、メンバーへの適切な「権限委譲」ができず、一人で仕事を抱え込んでチームマネジメントが完全に麻痺するという実害が生じているとき


5.慢性的な「有能なふり」による情緒的消耗と、深刻なバーンアウト・休職:周囲の期待に応え、実力不足の露見を防ぐために「有能な仮面」を維持し続ける慢性的なストレスは、個人の心理的リソースを急速に枯渇させます。これが長期化すると、セルフヘルプ(日記やポジティブ思考など)では対処できないレベルの「深刻な不眠」「抑うつ症状」「情緒的消耗(バーンアウト:燃え尽き症候群)」へと悪化しかかっているとき。


相談先

インポスター現象自体は「症候群」ではありませんが、それによって引き起こされる「苦痛」は本物です。適切な支援を受けることは、プロフェッショナルとしてのレジリエンス(回復力)の一環であり、長期的なキャリア形成における正当な戦略的判断です。躊躇せずに臨床心理士や精神科医などの専門家への相談もしくは職場内の健康管理センターおよび相談室へ相談をしてください。


自分で状態が判別できないときには下記のサイトも活用してください。


結論:才能を最大化する持続可能なプロフェッショナル文化へ

 インポスター現象は、有能な個人が不適切な構造や過度な期待に晒された際に発せられる「システムの警報」です。これを個人の弱さと捉える時代は終わりました。

 今、組織に求められているのは、「個人を修正する」ことから「環境を最適化する」ことへのパラダイムシフトです。誰もが自らの実績を正当に内面化でき、自己疑念を成長の糧へと変えられる文化こそが、真の意味で持続可能な組織を創り上げます。客観的なデータに基づき、構造的な視点を持って環境を整えることが、個人の才能を解放し、組織の進化を加速させる唯一の道です。


そのうえで、あなたへ伝えたいこと

 インポスター現象は、あなたが現状に甘んじることなく、高度な挑戦を続けている証拠でもあります。研究が示す通り、それはキャリアの全段階において発生する「一般的な人間としての経験」であり、あなたが成長のプロセスにいることの証左です。最後に、一つ問いかけてみてください。「あなたが今感じているその『不安』は、実はあなたが自分の仕事や貢献を深く大切に思っているという、あなたの『価値観』の裏返しではないでしょうか?」


 インポスター現象を「直すべき病」と捉えるのをやめ、構造的な視点を持って環境を客観視してください。その不安を抱えたまま一歩を踏み出すとき、あなたは「偽物」ではなく、紛れもない「自分自身の人生の主役」として歩み始めているのです。


よくある質問(Q&A)


インポスター症候群は病気や精神疾患ですか?

インポスター症候群(正式にはインポスター現象)は医学的疾患ではなく、精神疾患の診断基準DSMにも掲載されていません。誰もが経験し得る普遍的な心理反応であり、「治療して排除すべき病理」ではなく、有能な人材が新たな挑戦に直面した際の一時的な反応として理解されています。ただし業務遂行に支障が出る場合は専門家への相談が推奨されます。


インポスター現象はなぜ起きるのですか?

個人の完璧主義などの脆弱性と、心理的安全性の欠如や過度な競争といった環境的トリガーの掛け合わせで生じます。個人の性格の問題ではなく、組織環境がこの現象を増幅させる大きな要因です。


インポスター現象への対処法として「自信を持つ」は有効ですか?

「もっと自信を持とう」というアドバイスは、往々にして逆効果になります。無理にポジティブになろうとすることは、かえって自己否定を強めてしまうこともあるからです。不安を排除しようとするのではなく、それを受け流しながら価値ある行動を選択する「心理的柔軟性」を高めるアプローチが注目されています。


女性やマイノリティはインポスター現象を経験しやすいですか?

ソフトウェアエンジニア対象の調査では、白人エンジニアの経験率50%に対し、女性60.6%・アジア系67.9%・黒人65.1%と、マイノリティ層で高い傾向が示されています(Guenes,2023)。これはロールモデルの欠如や「自分のグループ全体の能力を代表している」というステレオタイプの脅威など、構造的プレッシャーによるものであり、個人の欠陥ではなく環境の不備に対する反応である可能性があります。

「女性やマイノリティの問題」と限定することは危険です。


どのような状態になったら専門家に相談すべきですか?

2週間から1ヶ月以上続く慢性的な抑うつや不眠、パニック発作、燃え尽き症候群の併発、またはセルフヘルプで改善せず業務遂行に実害が出ている場合は、公認心理師・臨床心理士・精神科医などへの相談を検討してください。



引用文献

Aparna,K .H,& Preetha,M. (2020). Impostor syndrome: an integrative framework of its antecedents, consequences and moderating factors on sustainable leader behaviors. European Journal of Training and Development. 46. 847-860. 10.1108/EJTD-07-2019-0138.

Barr-Walker, J., et al. (2020). Coping with Impostor Feelings: Evidence Based Recommendations from a Mixed Methods Study. Evidence Based Library and Information Practice. DOI: 10.18438/EBLIP29706

Bravata et al., "Prevalence, Predictors, and Treatment of Impostor Syndrome: a Systematic Review," Journal of General Internal Medicine, 2020. doi: 10.1007/S11606-019-05364-1

Chang, P., et al. (2022). Intervening on impostor phenomenon: Prospective evaluation of a workshop for health science students using a mixed-method design. BMC Medical Education. DOI: 10.1186/s12909-022-03824-7

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Deshmukh, S., et al. (2022). Imposter phenomenon in radiology: Incidence, intervention, and impact on wellness. Clinical Imaging. DOI: 10.1016/j.clinimag.2021.11.009

Feenstra et al. “Are You Better Than Me? Competitive Work Climates Fuel Impostorism via Upward Social Comparisons.” Social Psychological and Personality Science. DOI: 10.1177/19485506251348803

藤江 里衣子(2009),インポスター現象研究の概観,名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要. 心理発達科学, (56)29-38,https://cir.nii.ac.jp/crid/1390290699486256256,https://doi.org/10.18999/nupsych.56.29

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Katherine Hawley,(2019) I—What Is Impostor Syndrome?, Aristotelian Society Supplementary Volume, Volume 93, Issue 1, 2019, Pages 203–226, https://doi.org/10.1093/arisup/akz003

Para, L., et al. (2024). Interventions addressing the impostor phenomenon: A scoping review. Frontiers in Psychology. DOI: 10.3389/fpsyg.2024.1360540

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Uslu, B. (2024). The Imposter Experience: Examining the Psychological Foundations and Impacts of Imposter Syndrome. Sakarya Üniversitesi İşletme Enstitüsü Dergisi. DOI: 10.47542/sauied.1577213


担当する心理士

塚越友子PhD

(つかこしともこ)

博士(教育学)・臨床心理士・公認心理師

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自殺念慮(希死念慮)を含む危機状態、家族関係、対人関係における関係性の問題を専門とし、長年改善しない悩みや生きづらさに対して、関係性の再構築を通じて日常を動かし人生を再構築するための変化を18年以上にわたり支援しています。

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