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年末年始のSNSが辛いあなたへ|孤独感・自己否定が強まる心理と回復の臨床心理学的な処方箋

  • 執筆者の写真: Tsukakoshi Tomoko,Ph.D.
    Tsukakoshi Tomoko,Ph.D.
  • 2025年12月19日
  • 読了時間: 13分
SNS疲れ
他人が輝いてみえるのは幻想

目次


1.   はじめに:光が強い時期ほど、影もまた濃くなる


  年末年始は、多くの人にとって深い孤独と、言葉にならない辛さを感じる季節でもあります。メディアやSNSにあふれる、きらびやかなパーティー、愛する人たちとの完璧な笑顔、そして達成感に満ちた一年の振り返り。それらはまるで、まばゆい光に照らされた「壮大な舞台」のようです。私たちは皆、その舞台を客席から一人で見つめている観客なのかもしれません。そして、その光が強ければ強いほど、自分の座る客席の影は濃くなり、心には焦りや孤独感が深まっていきます。


 この記事では、ありきたりな慰めの言葉は提供しません。その代わりに、あなたをその客席からそっと連れ出し、華やかな舞台の裏側で何が起きているのか、その心理的な仕組みを臨床心理学の研究知見に基づき一緒に解き明かし、心の痛みから抜け出すための具体的で、すぐに実践できる心の処方箋をお渡しします。あなた自身が心の主導権を取り戻すための、静かで優しいガイドです。

 

 まずは、この時期に溢れる「幸福なイメージ」は、私たちの心をこれほどまでに苦しめるのでしょうか。そのからくりを、これから一緒に見ていきましょう。



SNS疲れ
他人の完璧な瞬間と自分を比べなくていい

2. なぜ年末年始、SNSの「幸せ」の洪水で私たちの心は辛くなるのか

 

「自分だけが取り残されている」という感覚は、個人の失敗ではなく、SNSの構造が生み出す心理的苦痛です。この外部からの影響を正しく理解することは、自分を責める思考の連鎖を断ち切るための、きわめて重要な第一歩です。

 

2-1. 他人の「ハイライトリール」と自分の日常を比べてしまう罠

 SNSは現実をありのままに映す窓ではなく、成功と幸福の瞬間だけを厳選した「ハイライトリール」として機能しています 。研究によれば、SNS上では人生の失敗よりも成功が圧倒的に多く共有される傾向があることが示されています (Verduyn et al., 2020)。私たちはSNSを開くたびに、他者の人生の最も輝かしい部分だけを、知らず知らずのうちに浴び続けているのです。


 この状況は、私たちの心に上方比較というプロセスを引き起こします。これは、自分よりも優れていると感じる他者と自分を比較する、人間の基本的な心の働きです。他人のハイライトリールと、自分の編集されていない、時には退屈で困難も伴う「日常の舞台裏」を無意識に比べてしまうことで、「自分だけが取り残されている」という孤独感が静かに、しかし着実に育ってしまうのです。

 

2-2. 「受動的な閲覧」が孤独感を加速させる

 SNSの利用には、友人にメッセージを送ったりコメントをしたりする「能動的利用」と、他人の投稿をただ眺め続ける「受動的利用」の二種類があります (Verduyn et al., 2017)。複数の研究が、特にこの「受動的利用」こそが、社会的比較とそれに伴う羨望の感情を強く引き起こしやすいことを明らかにしています (Verduyn et al., 2015; Verduyn et al., 2020)。対照的に、特定の友人と直接メッセージを交換するような「積極的な利用」は、むしろ繋がりを深める効果も報告されています。SNS利用の問題は、私たちが無意識に陥りがちな、比較を生むだけの利用法にあるのです。

 

 また、この容赦ない上方比較は、必然的に嫉妬の感情をかき立て、「他人は自分よりも幸せで、より成功した人生を送っている」という歪んだ信念を強化します。私たちの心は知らず知らずのうちに消耗し、自己肯定感は静かに削られていきます。そしてこの羨望は、時として「自己高揚と羨望のスパイラル」と呼ばれる、苦しい循環を生み出します。誰かの輝かしい投稿を見て羨望を感じた人が、その気持ちを紛らわすために今度は自分自身の「ハイライト」を投稿し、それがまた別の誰かの羨望をかき立てるのです (Verduyn et al., 2020)。

 

2-3. 繋がるほどに深まる「見えない孤独」

 一見すると矛盾するように聞こえますが、ある大規模な調査研究では、SNSの利用時間が長い19歳から32歳の米国の若年成人ほど、「認識された社会的孤立」を強く感じる傾向があることが示されています(Primack et al., 2017)。つまり、繋がるために使っているはずのツールが、皮肉にも私たちをより一層孤独に感じさせているのです。

 

 この現象が起こる背景には、主に二つの心理的な動きがあると考えられています。一つは、SNSに費やす時間が増えることで、直接顔を合わせるような現実の交流の機会が失われてしまうこと。もう一つは、先ほども説明しましたが、他者の理想化された人生を頻繁に目にすることで、「他の誰もが自分より幸せで、充実した人生を送っている」という歪んだ認識が生まれてしまうことです。世界中の人々と繋がっているはずのスクリーンの中で、私たちはかえって深い孤立感を覚えてしまうのです。

 

 しかし、SNSという外部の引き金がもたらすダメージは、それ自体で完結するわけではありません。本当の苦しみは、この引き金が私たちの内なる痛みを伴うプロセスを起動させた時に始まります。次に、その内部で何が起きているのかを見ていきましょう。



3. あなたを責める「内なる批判者」の正体

 SNSの世界で感じた劣等感や孤独感は、やがてあなたの心の内側へと侵入し、ある特定の「声」を呼び覚まします。この声は、あなたを容赦なく責め立て、自己嫌悪へと追い込みます。このセクションの目的は、その声の正体を明らかにし、それがあなたの人間性の一部ではなく、特定の状況下で起動する心理的なパターンに過ぎないことを理解することです。


自己否定の根源:内なる批判者は保護者だった
自己否定の根源:内なる批判者は保護者だった

 

3-1. 「内なる批評家」の起源:かつてはあなたを守るための声だった

 この声の主を、心理学では「内なる批判者」と呼びます。それはまるで、四六時中あなたを監視し、些細なことでも厳しく断罪する「内なる裁判官」や、頭の中で響き渡る「横暴な声」のようなものです。この声は、あなたの行動、感情、そして存在そのものに対して、「こうあるべきだ」「なぜできないんだ」と禁止命令を課し、絶えずあなたを叱責します (Pearson & Wilson, 2024)。

 

 驚くべきことに、この自己批判的な声は、元々はあなたを傷つきや拒絶から守るための「保護メカニズム」でした(Pearson & Wilson, 2024; Gilbert & Irons, 2005)。子供の頃の私たちは、親や社会からの期待や判断を敏感に感じ取り、それに合わせることで愛され、認められようと必死でした。その過程で、周囲の期待や基準を内面化し、「こうあるべきだ」と自分に言い聞かせることで、あなたはかつて自分を守ろうとしたのです。


 しかし、時を経て、かつてあなたを守るための「保護者」であったはずの声は、皮肉にもあなた自身を最も厳しく攻撃する「加害者」へと姿を変えてしまいました。その声は、あなたを傷つけようとしているのではなく、古い地図を頼りに必死であなたを守ろうとしている、迷子の保護者のようなものかもしれません。

 

 SNS閲覧によりはじまる上方比較は、この眠っていた「内なる批判者」を呼び覚ます、きわめて強力な引き金となります。オンライン上の「完璧な人生」と、自分の現実との間に横たわるギャップは、批判者があなたを攻撃するための格好の弾薬となるのです。

 

3-2. 自己批判が深刻な心の不調につながる時

 この内部プロセスがもたらす苦しみは、決して些細なものではありません。数多くの研究が、厳しい自己批判がうつ病、不安障害、摂食障害、非自殺的自傷行為(NSSI)、そして自殺念慮といった、多くの心の不調の根底に共通して見られる、中心的な問題だと明らかにしています  (Zelkowitz & Cole, 2019; Pearson & Wilson, 2024)。もしあなたが今、深刻な痛みを抱えているのなら、それは些細な苦しみでもおかしなことでもありません。

 

もちろん、自分を振り返り、より良くなろうと願うこと自体は、人間として自然で健全な心の働きです。「次はもっとうまくやれるはずだ」という声は、私たちを成長させてくれます。しかし、「内なる批評家」の声は違います。それは「自分はダメな人間だ」と、あなたの存在そのものを断罪する、有害な声です (Pearson & Wilson, 2024)。

 

しかし、希望はあります。この苦しみから抜け出す鍵は、内なる批判者を打ち負かしたり、消し去ったりすることではありません。その声が「本当のあなた」ではないことに気づき、その声と自分自身との間に、健全な距離を作ることです。次章では、そのための具体的な方法を学びます。

内なる批判者に気づく
内なる批判者に気づく

4. 辛さから解放されるための「2つの声」の見分け方


4-1内なる批判者VS健全な自己評価

 ここからが、あなた自身で実践できる、回復への道筋です。このセクションで目指すのは、自己評価そのものをなくすことではありません。自分を振り返り、成長のために改善点を見つける能力は、人間にとって不可欠です。ここでの目標は、あなたを蝕み、無力にする自己破壊的な内なる対話を、建設的で、あなたを力づける内なる対話へと変容させるスキルを身につけることです。

 

 臨床研究に基づくと、私たちの内なる声には、明確に区別できる2つの種類が存在します(Pearson & Wilson, 2024)。一つはあなたを傷つける「内なる批判者の声」、もう一つはあなたの成長を助ける「健全な自己評価の声」です。回復への第一歩は、自分を蝕む声と、成長を助ける「健全な自己評価」を見分けることです 。

 

4-2内なる批判者VS健全な自己評価チェック法

 次の表は、その二つの声の決定的な違いをまとめたものです。苦しい瞬間に、あなたの心に響いているのがどちらの声なのかを判断するための、信頼できる羅針盤となるでしょう。 


 特徴

   内なる批判者の声

  健全な自己評価の声

方向性

「私に対して」語りかける

「私の中から」湧き上がる

トーン

厳しく、冷酷で、決めつける

穏やかで、静かで、探求的

言葉遣い

「~すべき」「~ねばならない」

「~かもしれない」「~を試せるかも」

身体感覚

緊張、収縮、重さ、息苦しさ

解放感、リラックス、軽さ、深い呼吸

結果

絶望感、無気力、自己嫌悪

前向きなエネルギー、自己成長への意欲

 この識別を通じて目指すのは、「距離を創ること」です。内なる批判者の声は、否定できない真実ではなく、単なる思考のパターン――「やかましくて、繰り返し現れる古い癖」――に過ぎないと認識することです。マインドフルネスの教えにもあるように、思考は単なる「心の中で起きる出来事」であり、事実そのものではありません。

 

 この知識を、今すぐ使える具体的な行動に変えてみましょう。次に紹介するのは、たった1分で、あなたの心の主導権を取り戻すためのシンプルな実践です。


自己否定から解放され自己肯定感を手にいれる
自己否定から解放され自己肯定感を手にいれる

5. 【実践】1分で心の主導権を取り戻す4つのステップ

 

 このセクションは、これまでに学んだ知識を、具体的な行動へと落とし込むためのものです。これから紹介するステップは、心が圧倒され、どうしようもなく苦しい瞬間のためにデザインされています。特別な道具も、多くのエネルギーも必要ありません。ただ、その場に立ち止まるだけで始められます。

 

心が圧倒されたとき、次のステップを、一つずつ丁寧に行ってみてください。



 

ステップ1 立ち止まる

すべての思考を止め、ただ一度、深くゆっくりとした呼吸をしてください。吸う息と吐く息に意識を集中させ、ほんの数秒間、心を現在地に戻します。

 

ステップ2 気づいて、名前をつける

心の中の厳しい声に気づき、「ああ、また『批判者』の声が聞こえるな」と心の中でラベルを貼ります。声の内容に巻き込まれるのではなく、ただその存在を客観的に認識するのです。これだけで、声との間にわずかな距離が生まれます。

 

ステップ3  声の質を確かめる

自分に優しく問いかけます。「この声は、私に『対して』語りかけているか?それとも私の『中から』来ているか?」。

前のセクションの表を参考に、体が緊張しているか、リラックスしているかを感じてみてください。声のトーンや身体感覚を観察することで、それが「批判者」のものであることがより明確になります。

 

ステップ4 目的を認め、手放す

批判に同意する必要はありません。ただ、「私を守ろうとしてくれているんだね。ありがとう。でも、今は大丈夫だよ」と心の中で伝えます。その声が、かつてはあなたを守るための不器用な方法だったことを認めます。

そして、意識を再び、あなたの呼吸に戻します。その声が遠ざかっていくのを感じながら、ただ、息を吸って、吐いてを繰り返し自分のタイミングでワークを終了します。



 

 一度で完璧に機能する魔法ではありません。これは練習です。しかし、この練習を繰り返すたびに、自己認識という「心の筋肉」は確実に鍛えられ、「内なる批判者」が自動的にあなたを支配する力は少しずつ弱まっていきます。


 もちろん、時には批判者の声が大きすぎて、一人で向き合うのが困難な場合もあります。そのような時に助けを求めることは、弱さではなく、強さと賢さの証です。



6. おわりに

一人で抱えきれないほどの痛みを感じている方へ


6-1 辛さは「理解可能な反応」である

 この記事を通してお伝えしたかった中心的なメッセージを、最後にもう一度、繰り返させてください。年末年始にあなたが感じる強烈な痛みは、理想化されたソーシャルメディアの世界と、あなた自身の内なる批判的な声との衝突によって生まれる、現実的で理解可能な反応です。あなたは決して壊れているわけでも、おかしいわけでもありません。そして、その辛さを和らげる方法は確かに存在します。

 

6-2 ホットラインやカウンセリングを選ぶタイミング

 もし、「内なる批判者」の声があまりにも大きく、あなたの命を終わらせたい、あるいは自分を傷つけたいという思考をかき立て、1分間の実践さえ不可能だと感じるのなら、どうか自分を責めないでください。それは、あなたが一人で抱えるには重すぎる荷物を背負っているというサインです。そして、まさにそのような瞬間のために用意された、命綱があることを知ってください。

 

 日本には、どうしようもなく苦しい時に、無料かつ匿名で相談できる公的な窓口やNPOのホットラインがあります。専門家ではありませんが、組織内で訓練を受けた人々が、あなたの話を聞くために待っています。

 

 そして、もしこの「内なる批判者」との関係性を、時間をかけて専門家と共にじっくりと見つめ直したいと感じるなら、カウンセリングという選択肢もあります。東京中央カウンセリングでは、コンパッション焦点化療法(CFT)・アクセプタンス・アンド・コミットメントセラピー(ACT)・認知行動療法(CBT)をもちいて、自己批判の心のパターンを安全な環境で探求し、より健全な自己との関係を築いていくためのサポートを提供しています。

 

 どうか忘れないでください。あなたは、心の平穏と、温かいサポートを受ける価値のある、かけがえのない存在です。



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SNSとの付き合い方を通して、自己肯定感を育てる
SNSとの付き合い方を通して、自己肯定感を育てる

 

引用文献

Gilbert, P., & Irons, C. (2005). Focused therapies and compassionate mind training for shame and self-attacking. In P. Gilbert (Ed.), Compassion (pp. 263–325). Routledge. https:/​/​doi.org/​10.4324/​9780203003459-15

Pearson, M., & Wilson, H. (2024). Guiding Clients Towards Self-Kindness and Acceptance: Wrestling With the Inner Critic. Deleted Journal. https://doi.org/10.59158/001c.123356

 

Primack, B. A., Shensa, A., Sidani, J. E., Whaite, E. O., Lin, L. Y., Rosen, D., Colditz, J. B., Radovic, A., & Miller, E. (2017). Social Media Use and Perceived Social Isolation Among Young Adults in the U.S. American journal of preventive medicine53(1), 1–8. https://doi.org/10.1016/j.amepre.2017.01.010

 

Verduyn, P., Ybarra, O., Résibois, M., Jonides, J., & Kross, E. (2017). Do social network sites enhance or undermine subjective well‐being? A critical review. Social Issues and Policy Review, 11(1), 274–302. https://doi.org/10.1111/sipr.12033

 

Verduyn, P., Gugushvili, N., Massar, K., Täht, K., & Kross, E. (2020). Social comparison on social networking sites. Current opinion in psychology36, 32–37. https://doi.org/10.1016/j.copsyc.2020.04.002

 

Zelkowitz, R. L., & Cole, D. A. (2019). Self-Criticism as a Transdiagnostic Process in Nonsuicidal Self-Injury and Disordered Eating: Systematic Review and Meta-Analysis. Suicide & life-threatening behavior49(1), 310–327. https://doi.org/10.1111/sltb.12436

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