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孤独のレッスン3 自分自身との良好な関係を築くセルフコンパッション

今回は、孤独に対応するための3つの方略のうち、1つめ自分自身の内面に取り組む方法として、自分と良好な関係を築くスキルを紹介します。


孤独な人は、過度に世界は危険なものだと認識している状態で、人とのつながりを求める一方で、人との親密なつながりを避ける、ジレンマ状態にあると前回のコラムで書きましたね。

孤独でない人と比べて、孤独な人は社会的な出会いに、より大きな皮肉と対人不信を持って臨み(Brennan & Auslander, 1979; Jones, Freemon, & Goswick, 1981; Moore & Sermat, 1974)、他人と自分自身をより否定的に評価し、他人が自分を拒絶すると予想しやすいことがわかっています(Jones, 1982)。さらに、孤独な人は自己価値感が低く(Peplau, Miceli, & Morasch, 1982)、社会的失敗のために自分を責める傾向があり(Anderson, Horowitz, & French, 1983)、社会的状況においてより自意識過剰になり(Cheek & Busch, 1981)、拒絶される可能性を減少させるのではなく、増加させる行動をとる(Horowitz, 1983)といわれています。

まずは、自分を責めたり、孤独の痛みから不安や恐怖など心の痛みを持った状態を癒やしていくことが大切です。このとき、人に癒やしを求めたくなるでしょうが、孤独の人の心理は、人に癒やしを求めて、人の癒やしを適切に受け取ることができない状態なので、他者に救いを求める前に、自分で他者の救いを受け入れられる土台をつくる準備をします。



一つの方法として、セルフコンパッションという技法があります。

 コンパッションとは、思いやり、優しさ、慈愛と日本語では訳されることが多い言葉です。心理療法の領域では、セルフコンパッションは、「ありのままに苦しみと出会いつながる」という意味合いが強い用語です。セルフコンパッションとは、簡単にいうと自分の苦しみとありのままに出会い、苦しみにつながり、苦しみをやわらげるよう心をつくして、優しい気持ちを向けていくことになります。他者にコンパッションを向けるときをイメージするとわかりやすいと思います。他者が苦しんでいるときに、その人を批判したり、ただただ悲しみに一緒に浸ることはしないと思います。相手の苦しみを感じ取ったら、やわらげ、苦しまずにすむようにしてあげたいとこころをつくすと思います。

 しかし、セルフコンパッションはそうは簡単にいきません。自分の苦しみや自分の負の側面(自己嫌悪、自己批判、恥、その他ネガティブな感情)をありのままに受けいれることはできれば避けたい・なくしたい感情なのでとても難しい。カウンセリング内でも、セルフコンパッションを取り入れる際にはちょっとした抵抗が生じます。他者からみて、非常に困難な状況にあり決して甘えでも甘やかしでもない状態でも、「自分に優しい言葉をかけるなんてもってのほか!自分を甘やかしちゃいけない。私は〇〇すべき!できない自分がダメなんです!」とおっしゃる方はとても多い。

 問題を抱えていなくても、心の幸福感を高めるポジティブな習慣としてセルフコンパッションを取り入れることを講演や研修でお話するとたいてい「そんなことしたら自分を甘やかしてダメになるのではないでしょうか?」「気持ち悪い」というような声をいただきます。

セルフコンパッションはかなり抵抗感を持たれるのですが、実際にはセルフコンパッションが高い人は抑うつ・不安が低く、幸福度が高いこともわかっています。

 また、孤独感が高まって脅威に敏感になっている状態にたいして、セルフコンパッションは脅威を弱めることができます。

セルフコンパッションは、ここまでお話したように抵抗も多く、実践できるように練習が必要です。

第1段階:孤独の強い人の脅威状態では、セルフコンパッションをすぐに実行することが難しいので、まずは脅威状態を緩めていきます。落ち着く状態を呼吸法・声・姿勢・イメージを使ってつくっていきます。


1 安定した開かれた姿勢

姿勢は思った以上に心の状態に影響をあたえます。

例えば、腕を組んで、頭を下に向けて、背中を丸めて20秒ぐらいその姿勢を維持してみます。きっと、なんとなく不安だったり、不快だったり、重苦しい気分になると思います。

エクササイズ1は、ゆったり、どっしりし、開かれて安定した感覚を感じる姿勢のポジションを探し、しばらくその姿勢で過ごします。そして、どんな感じが自分の中にしてくるか観察してみましょう。

2 表情

 1でつくった姿勢のまま、今度は顔にあたたかくにこやかな表情にします。顔の力がぬけて、落ち着くような感じがする表情です。30秒くらいそのままにして、どんな感じがしてくるか観察してみましょう。

3 呼吸

呼吸はマインドフル瞑想などでも扱われるように、とてもパワフルに私たちの身体的にも心理的にも内的な状態に影響を及ぼします。

心を穏やかにする呼吸法をみにつけていきます。1と2でつくった姿勢と表情の状態で呼吸に意識を向けます。

 静かな場所で座って、落ち着いた、心を開いた姿勢をつくります。にこやかな表情をつくったら、呼吸に意識をむけます。自分のペースでかまいませんので、流れるような呼吸のリズムに注目し続けましょう。どんな感じがするでしょうか?おだやかでやさしい呼吸のリズムを見つけたらそのリズムを続けます。5分くらい続けたら終わります。

4 言葉をプラス

 3のおだやかでやさしい呼吸のリズムで呼吸をしながら、息を吐くときに「心がゆっくりと落ち着いてゆく」とこころの中で唱えます。次は、「体がゆっくりと落ち着いていく」とと心の中で唱えてみます。一番しっくりくる言葉をみつけて5分くらい続けてみましょう。

5 言葉を声にだす

 4の状態で、ゆったり落ち着いた状態を保ちながら、今度は実際に自分の中のおだやかなイメージの声のトーンで、声にだして言ってみます。優しい声のトーンに意識を向けてみましょう。

6 イメージをつかう

 安心する色を思い浮かべて、その色の世界につつまれるようなイメージに居続けてみましょう。

 安心・安全な場所のイメージをして、その場にいつづけてみましょう。安心・安全をしっかり感じきります。


注意)自分の心の中や呼吸に意識をむけると、不快な感じがしたり、落ち着かない感じがする方もいます。そういった場合は、瞑想用のアプリなどを使ったり、アロマをたいて香りに意識をむけてみたり、音楽をながして音楽に意識をむけたり工夫をしてみてください。

さらに)5では慈悲の瞑想を取り入れてもよいです。慈悲の瞑想とは、私が安全でありますように。 私が安全に暮らせますように。私が幸せでありますように。 私が幸せで,安隠でありますように。私が健康でありますように。 私の心と身体が健康でありますように。私が心安らかでありますように。 私の悩み苦しみがなくなりますように。というフレーズを言葉にする瞑想です。


7 絆の瞑想

6で安心・安全な場所のイメージをつくり、そこで穏やかな気持ちになれた人は、いよいよ人間を想像します。人から思いやりと優しさを受け取ることができた記憶を思い出します。少し時間をかけて、その体験を五感で味わいましょう。記憶の中の相手との絆を感じられることができたら、そこからあなたがどんな安心や安全を感じたかじっくり観察して味わってみましょう。味わえたと思ったら、呼吸に意識をもどし、ゆっくりと自分のペースでエクササイズを終えていきます。


セルフコンパッションを行うための土台作りをしばらく練習してくださいね。めんどうくさいけれど、何事も土台作りが大切、そして練習はあなたを裏切らない。


次回は第2段階セルフコンパッションのエクササイズをご案内します。


引用文献

有光 興記(2021)コンパッションとウェルビーイング ―調査,実験,介入研究とマインドフルネスとの関係性について― 心理学評論,64(3),403-427

水野雅之・千島雄太(2017)セルフ・コンパッションおよび自尊感情とウェルビーイングの関連─コーピングを媒介変数として─ 感情心理学研究,24(3),112-118

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