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集中できないを科学で説明する:年末年始の「忙しさで疲れやすい」時の集中力の高めかた

  • tomokotsukakoshi
  • 11月10日
  • 読了時間: 7分

更新日:4 日前

年末の「集中できない」「気が散る」現象を説明する

年末の慌ただしさの中で、私たちは「あれもこれもやらなきゃ」と焦り、普段しないようなミスを連発しがちです。なぜ、このような時に集中力が散漫になるのでしょうか?


認知心理学の「注意と認知的コントロールの負荷理論(Load Theory of Attention and Cognitive Control)」は、注意を向ける能力(選択的注意)の効率が「知覚負荷」と「認知負荷」という2種類の「タスクの重さ」に依存すると説明しています。

年末の状況をこの2つの負荷に当てはめて考えると、「集中できない状態」を作り出している真犯人、そしてその対処法が見えてきます。


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1) 集中力を高める「高知覚負荷」のメカニズム

チェックポイント:集中しすぎてないか?

知覚負荷(Perceptual Load)とは、「目の前の情報処理の複雑さ」を指します。これは、私たちの感覚器官(目や耳など)が処理できる情報量には限界がある、という前提に基づいています。

年末の状況(高知覚負荷):

年末の「大掃除」や「複雑な書類整理」を想像してください。

■知覚負荷が高い状態:

  • 山積みになった大量の書類の中から必要な情報を見つけ出す。

  • 周囲が人でごった返しており、非常に複雑な動きや情報が視界に入っている(例:混雑した店内のレジ打ち)。

  • この状態では、タスクを遂行するために、すべての知覚容量(処理リソース)が、目の前のターゲット情報(必要な文字、目の前の動き)を処理するために使い果たされます。

■集中力への影響(ディストラクター[周囲にある無関係な刺激]の排除):

  • 知覚リソースが完全に消費されるため、ディストラクター(例えば「遠くから聞こえる電話の音」や「隣の人の会話」)は、処理の非常に早い段階で自動的にシャットアウトされます。

  • 結果として、ディストラクターによる干渉(気が散ること)が減少し、意図せずとも集中力が高まります。

  • この時、あなたは「集中できなくてあちこちに気がそれる」のではなく、逆に集中しすぎて周囲が見えなくなっている(注意散漫が抑制されている)状態にあると言えます


    自分のミスの原因が集中しすぎによるものでないかチェックしてみましょう。


【集中力向上への解決策 1:意図的に「高知覚負荷」を作り出す】

知覚負荷の集中力への影響の傾向を応用することで、気が散る状態をなくすこともできます。もし気が散って集中できない場合は、目の前のタスクを「より複雑」にすることで、注意散漫を物理的に排除できる可能性があります。

実践例:

  • 書類の文字サイズを小さくしたり、あえて色や形が似ている情報を周囲に増やしたりして、ターゲットの識別を難しくする。

  • 周囲の雑音が気になる場合、あえて集中力を要する複雑な視覚タスクを課すことで、聴覚情報への注意を遮断します。


2) ミスや焦りを生む「高認知負荷」のメカニズム

私たちが年末のストレスで「ミスが多くなる」「あちこちに気がそれる」と感じるのは、主にこの「認知負荷」が原因である可能性が高いです。

認知負荷(Cognitive Load)とは、「情報の維持や操作、計画立案などの実行機能(ワーキングメモリ)の要求」、つまり「頭の中での処理の重さ」を指します。このリソースは、無関係な刺激を意識的に抑制する「トップダウン制御」の役割を担っています。


年末の状況(高認知負荷):

年末に「単純な作業中」でも集中力が途切れるのは、実行機能がパンクしているからです。

■認知負荷が高い状態:

    ◦ 単純な作業(例:封筒に宛名を貼る、簡単なデータ入力など。知覚負荷は低い)を行っている。と同時に、頭の中で複雑なこと(例:「今年の目標の反省」や「明日の家族の予定」「忘れちゃいけない電話番号」など)を積極的に維持・操作しようとしている。


■集中力への影響(ディストラクターの増加):

頭の中で情報を維持したり操作したりするのに、実行機能リソースが枯渇してしまいます。

その結果、周囲にある無関係な刺激を意識的に無視・抑制する能力(後期選択)が機能不全に陥り、「集中すべきではないもの」に簡単に注意が奪われてしまいます。

これは、負荷理論における古典的な予測、つまり「認知負荷はディストラクターによる干渉を増やす」という現象に合致します。


特に、最近の研究では、単に情報を「維持(maintenance)」するだけの記憶負荷は、知覚容量を圧迫し(ディストラクションを減らす)、情報の「認知的制御(cognitive control)」を要する負荷こそが、トップダウン制御を圧迫し(ディストラクションを増やす)と区別されています。年末の「焦り」や「ミス」は、後者の「認知的制御負荷」によって引き起こされていると言えます。


【集中力向上への解決策 2:意図的に「低認知負荷」の状態を作り出す】

集中力を取り戻すには、ワーキングメモリ内の「雑念」や「未完了のタスク」の負荷を軽減する必要があります。

• 実践例:

    ◦ 「頭の中のタスク」を外部化する:

今すぐ行う必要のない「気がかりなこと」や「覚えておくべき情報」をすべてメモ帳やタスクリストに書き出し、頭の中から追い出します。これにより、ワーキングメモリの制御リソースを解放し、目の前のタスクに集中できるようにします。

    ◦ 単一の作業に集中する:

一つのタスクを行うときは、それに必要な実行機能のみを用いるようにします。複雑な思考や計画立案は、作業を中断して集中して行う時間を設けるようにします。

    ◦ 高い知覚負荷を活用する:

低認知負荷の状態を作りつつ、さらに集中したい場合は、前述の通り、目の前の主要タスクの知覚負荷を上げて(例:資料を密集させる、難しい模様の背景を使うなど)、物理的に気が散る余地をなくす方法が有効です。




まとめ:年末の集中力をコントロールする

年末のストレス状況は、知覚負荷と認知負荷のバランスで説明できます。

集中力が乱れていると感じる場合、それは往々にして、目の前のタスクが単純(低知覚負荷)であるにもかかわらず、頭の中の雑念や計画(高認知負荷)が邪魔をしている状態です。

集中を乱す要因

高認知負荷

焦り、心配事、複雑な計画を頭の中で考えること

集中を高める要因

高知覚負荷

目の前のタスクが極めて複雑で情報量が多いこと

最終的な解決策として、年末の集中力を維持するためには、「高知覚負荷」と「低認知負荷」を意図的に組み合わせることが最も効果的です。


• 作業環境の改善: 目の前の作業に集中するために、タスクの視覚的な複雑さ(知覚負荷)を上げ、同時に、頭の中で考えること(認知負荷)を排除することが、ミスの減少と効率の向上につながります。



1分ワーク


年末の忙しさに飲まれないために、自分のために今日は1分だけ時間を使ってみましょう。


「ブレイン・ダンプ(頭の中の棚卸し)」

未完了のタスクリストの作成


1. ツールの準備(5秒): 紙とペン、またはスマートフォンのメモアプリを用意します。


2. 情報の一掃(40秒): 今、頭の中で「やらなければならない」「思い出さなければならない」「心配だ」と感じている、目の前の作業とは関係のないすべての事柄を、思考を止めずにひたすら書き出します。

    ◦ 例:「年賀状のリストの件」「あのメールの返信」「お歳暮のチェック」「冷蔵庫の残り物」「来年の目標」など。


3. 記憶からの解放(15秒): 書き出し終えたら、そのリストを作業場所から少し離れたところに置きます。


効果のメカニズム:

この行為は、認知負荷を軽減します。認知負荷が高い状態(ワーキングメモリが占有されている状態)では、無関係な周辺刺激を抑制するための実行機能リソース(トップダウン制御)が不足し、ディストラクションが増加します。


書き出すことによって、記憶を積極的に「維持(maintenance)」する必要がなくなり、実行機能リソースが解放されます。これにより、ディストラクターを無視し、目の前の主要なタスクに注意を向けるためのトップダウン制御が回復し、結果として集中力の低下やミスの発生を防ぐことができます


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■ 自分に優しい年末でいい


年末だからといって、

「もっと」「まだ足りない」と責める必要はありません。


忙しさに抗うのではなく、

自分を丁寧に扱う選択をしてみてください。


優しい行動は、必ず心に蓄えられます。

あなたのバランスを取り戻す力は、すでにあなたの中にあります。


必要なときは、頼ってください。

一人で抱える必要はありません。


あなたのペースを大切に



必要な時に

自分で工夫してみても、なんだか状況が改善しない。そんなとき専門家の視点を借りるのは弱さではなく、賢いセルフケアです。


参考文献

Lavie, N. (2010). Attention, Distraction and Cognitive Control Under Load. Current Directions in Psychological Science, 19(3), 143-148.

Murphy, G., Groeger, J.A. & Greene, C.M. (2016)Twenty years of load theory—Where are we now, and where should we go next?. Psychon Bull Rev 23, 1316–1340. https://doi.org/10.3758/s13423-015-0982-5

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