年末年始の時間管理でストレスを減らす:心理学でわかる”幸福感を高めるタイムマネジメント”
- Tsukakoshi Tomoko,Ph.D.
- 2025年11月17日
- 読了時間: 8分
いよいよ年末年始。仕事納め、大掃除、年賀状、お歳暮、帰省の準備...。やるべきことが山積みのこの時期、誰もが「時間がない」という慢性的な時間貧困に苦しめられています。効率化が叫ばれる現代において、タイムマネジメントは万能薬のように捉えられがちですが、本当に私たちは忙しさから解放されるのでしょうか?
心理学的なメタ分析に基づくと、タイムマネジメントは単なる仕事のツールではなく、あなたの心の健康と幸福感を高めるための強力な武器であることが示されています。

タイムマネジメントは生産性より”幸福感”を高める科学的理由
多くの人は、タイムマネジメントはまず第一に仕事のパフォーマンスを向上させるものだと考えています。しかし、包括的な研究の結果、タイムマネジメントは仕事のパフォーマンスや学業成績と中程度の関連性を持つ一方で、ウェルビーイング(幸福感)とも中程度に関連することが分かりました。
さらに驚くべきことに、タイムマネジメントはパフォーマンスを高めるよりも、ウェルビーイング(特に生活満足度)をより大きく高める傾向があります。ある研究では、タイムマネジメントが生活満足度に与える影響は、仕事満足度に与える影響よりも72%も強いという結果が出ています。この発見は、「タイムマネジメントはまず仕事の効率を高め、幸福感はその副産物に過ぎない」という一般的な認識に異議を唱えるものです。
つまりこの研究は、私達は、タイムマネジメントを「究極のスピードでタスクをこなすためのレーシングカー」のように捉えがちですが、その心理的な効果はむしろ「日々の振動を吸収し、乗り心地を快適にするサスペンション」に似ていることを示唆しています。
年末年始は道の混雑(タスクの増加)は避けられませんが、タイムマネジメントというサスペンションを持つことで、タスクをこなす過程で受ける心理的な衝撃やストレスを軽減し、全体的な人生の満足度を高めてくれるのです。
時間管理がディストレスを軽減する仕組み
忙しい時期は、締め切りや予想外の出来事によってディストレス(心理的苦痛、不安、ストレス)が増大します。タイムマネジメントは、これらの様々な形態のディストレスを軽減する効果があることが確認されており、特に心理的な苦痛に対して中程度の軽減効果があります。
このディストレス軽減の鍵となるのは、コントロール感です。
タイムマネジメントを実践している人は、自分の人生を自分でコントロールできていると感じる度合いと強く関連しています。また、タイムマネジメントは自己肯定感とも密接に関連しています。タイムマネジメントトレーニングを受けた人々が、時間のコントロール感が高まったと感じるという実験的証拠もあります 。
年末年始の急なタスクや予定変更は、どこへ向かうか分からない「満員電車」のようです。多くの人はただ流されるしかありません。しかし、タイムマネジメントを実践することは、その電車の「運転席のハンドル」を握ることに似ています。
たとえ車内の混雑度(タスクの量)が変わらなくても、「自分で進路を決めている」「自分で時間を管理している」という感覚が生まれることで、不安が和らぎ、精神的な健康が向上するのです。
年末年始に役立つ「3つの時間管理スキル」
タイムマネジメントは主に以下の3つの要素で構成されています。年末年始の慌ただしさを乗り切るために、これらの要素を意識して行動に移しましょう。
1. 時間の構造化(Structuring Time)
スケジュールや計画ツールを使って、活動を時間と系統的に結びつけること。
実践例: 年末年始の期間を俯瞰し、大掃除や買い出し、親戚への連絡などの主要な活動を、具体的な計画表(デジタルでも手書きでも)にマッピングします。
「やることリスト」だけでなく、「いつやるか」をルーティンとして決めることで、活動が構造的に結びつくようになります。これにより、やるべきことを見失うことなく、着実に進められるようになります。
2. 時間の保護(Protecting Time)
同僚や友人からの時間のかかる要求に対して「ノー」と言うなど、自分の時間に対する境界線を設定し、侵入者を避けること。
実践例:年末年始に「絶対に確保したい時間」(例:家族との団らん、個人の休息時間)を明確にし、その時間帯には仕事のメールやSNSの通知をオフにする(作業用携帯を夕食中は切るなど)境界線を設定します。
特にこの時期は人からの誘いも増えますが、あなたの時間構造を乱すような要求には、勇気を持って「ノー」と言うことが、時間を守る行動となります。
3. 時間への適応(Adapting Time)
自分の時間構造に対して柔軟に対応し、変化する状況に応じて応答的に調整すること。
実践例:予期せぬ待ち時間やスキマ時間(例:買い物のレジ待ち、電車移動)を、単なる「ダウンタイム」として消費するのではなく、「待っている時間を利用して、次のタスクをチェックする」「献立を考える」など、有効活用します。
年末年始の予定は予期せぬ変更がつきものです。計画通りに進まなくても、スケジュールを柔軟に評価し直すことで、ストレスの増大を防ぎます。
避けるべき落とし穴:時間を「お金」として見なす危険性
タイムマネジメントの実践において注意すべき心理的な罠があります。それは、時間を「お金」として考えることです。「時は金なり」という格言には、資本主義的な「機会損失」という意味合いが込められています。時間は有限で無駄にしてはいけないというだけでなく、時間の使い方によってお金を稼ぐ機会を損失する(お金を失う)という意味合いです。
「時は金なり」という格言は有名ですが、時間を金銭的な価値として捉えると、時間のプレッシャーやストレスが増し、イライラしやすくなり、その瞬間を楽しむ能力が損なわれるなど、多くの負の結果につながることが研究で示されています。また、時間を金銭として考えることは、他人を助ける意欲を低下させたり、環境問題への関心が薄れたりすることにもつながります。
年末年始は、効率化や生産性を追求するあまり、時間を「お金」のように切り詰めて考えるのをやめましょう。むしろ、タイムマネジメントを使って生み出した時間を、精神的な充足や、人生に意味を与える活動のために使うことに意識を向けるべきです。
タイムマネジメントの真価は、タスクをこなす速度を上げることではなく、忙しい時期でも生活のコントロール感と心の平穏を保ち、人生の満足度を高めることにあるのです。
1分できる「境界線スイッチ」ワーク
目的: 外部からの干渉を防ぎ、自分の時間に対するコントロール感を高めること。これにより、忙しい時期の心理的な苦痛(ディストレス)の軽減を目指します。
手順(1分で実行)
1. 集中時間または休息時間を決める(15秒)
これから行うタスク(例:大掃除の棚一つを終わらせる、または、コーヒーを飲んでリラックスする)のために、「次の30分間」など、具体的な時間枠を決定します。
2. 侵入者を特定し、物理的に保護する(45秒)
その時間枠を「侵入者」から守るために、具体的な対策を講じます。
例1:仕事のメールやSNSの通知をオフにする(最も一般的な時間の保護行動です)。
例2:もし可能であれば、仕事用の携帯電話の電源をオフにするか、家族の夕食中は携帯電話を別の部屋に置くなど、明確な境界線を引く行動をします。
例3:家族や同居人に、「この30分だけは、緊急の用事以外で声をかけないでほしい」と伝えます。
忙しさの中でも幸福感を取り戻すために
この「境界線スイッチ」ワークは、単に時間を効率化するためのものではなく、心の健康(ウェルビーイング)を高めるために非常に重要です。
タイムマネジメントを実践している人は、自分の人生を自分でコントロールできているという感覚(内的なコントロール源)が強いことと関連しています。年末年始は、他者からの要求や予期せぬタスクによって、このコントロール感が失われがちです。
効果 1: コントロール感の強化 1分で意図的に通知をオフにするという行動は、「私はこの時間を自分で管理している」という感覚をすぐに取り戻すことを助けます。
効果 2: ディストレスの軽減 時間を守るために「ノー」と言うことや物理的なバリアを設ける行動は、ストレス(ディストレス)を軽減する効果があることが確認されています。特に心理的な苦痛(Psychological Distress)に対しては、タイムマネジメントが強い軽減効果を持つことが示されています。

この1分ワークは、まるで家の中に「一時的な防音壁」を設置するようなものです。外の喧騒(タスクや要求)は消えませんが、壁があることで心理的な騒音から解放され、目の前のタスクや休息に集中し、心の平穏を保つことができるようになります。
ぜひ、年末年始に幸せになる時間管理の方法を身につけてみてください。新たな年を幸せに迎えるためにも!
Aeon, B., Faber, A., Panaccio, A. “Does Time Management Work? A Meta‐Analysis.” PLOS ONE, 16(1): e0245066, 2021.
Navin Young, A., Bourke, A., Foley, S., Di Blasi, Z. “Effects of Time Management Interventions on Mental Health and Wellbeing Factors: A Protocol for a Systematic Review.” PLOS ONE, 19(3): e0288887, 2024.
井邑智哉・, 髙村 真広, 岡崎 善弘, 徳永 智子 2016 時間管理尺度の作成と時間管理が心理的ストレス反応に及ぼす影響の検討 心理学研究87 巻, 4 号, p. 374-383 doi.org/10.4992/jjpsy.87.15212
