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HSPブーム 自分はHSPかな?と思ったら考えてほしいこと

ここ数年、大変流行している「私HSPなんです」という現象について、1つアドバイスをしたいと思います。

 HSPに限らず、心理界隈では数年ごとに新しい概念それは多くは病気として一般に認知されるものが流行します。(※HSPは病名ではありません)

 古くはBPD(境界性人格障害)・アダルトチルドレン・共依存・発達障害などがそれにあたるでしょう。BPDや発達障害は精神医学的にもアカデミックな領域でも病気として認められているので過剰診断という問題が発生します。医学的にもアカデミックにも認められていない概念は、一般に流行し、精神医療・心理臨床の現場とは乖離した形で理解が浸透し、新たな偏見を社会に産出していきます。

さて、それらが一概に良いとか悪いという話ではなく、一定の概念や病名が流行することの裏にある共通した構図から、HSPかもと思ったときに考えてほしいことを書きます。


 下図のように、HSPのような概念が導入されることは、生きづらさに名前がつくことです。つまり、今まで漠然となんだか他の人より疲れるなぁとか、敏感すぎるとか言われていたことに名前がつき、自分を全体の中でカテゴライズすることができるわけです。そのことが自分の問題への気づきにつながり、自己理解につながる場合、その人は流行の概念によって救われ、生きやすくなります。

  一方で、生きづらさに名前がつき、自分をカテゴライズすることの行き着く先が、自分と概念をアイデンティフィケーションする(同一化)ことで止まってしまう場合には、さらに生きづらさが深まります。生きづらさの深まりには2つの道筋があります。


生きづらさへのラベル付けのメリットデメリット

 1つ目は、深い劣等感と絶望感につながり、「自分は○○だからもう何をやってもだめなんだ」と考えてしまい、まさに、生きづらさが深まる道筋です。

 2つ目は、○○の概念によっては特別意識や免罪符につながる場合です。例えば、発達障害の中の一部の傾向には天才といわれるような傾向があります。自分は天才なんだとどこかでそこに救いを求め、日々の辛さから逃げ込むようになります。一時的には救われるでしょう。

 HSPも「自分はHSPでして....」と他人に伝えることで、「繊細」という素敵なラベルがつけられます。神経質・心配性とラベルされるより全然気分がいいですよね。一時的に避難する場所ができるのはいいのですが、一時避難場所であり、生きづらさ自体はかわらないもしくは周囲との摩擦が増えることもあります。

 周囲は自分自身のようにそう都合よく解釈してくれません。あなたが自ら、カテゴライズすることで「面倒なやつもしくは、自分たちと違う人なのね」とラベルをはることを周囲に許可し、周囲はあなたを表立って”自分たちとは違う人”扱いしやすくなります。そして結果的にあなたは更に疎外感を感じるようになる。生きづらさがまし、避難所に行くか周囲に怒りを感じるかの悪循環のケースです。

 自分の生きづらさをとらえやすくすることと、自分という人間を概念で定義することは全く別のことです。HSPは、環境への反応の傾向という環境感受性であって、あなたすべてを説明するものではありません。環境感受性だけであなたという人間を説明できますか?

 あなたはどんな人ですか?と人からきかれて、私は外部の刺激に反応しやすい人です。だけで相手に自分を説明できるでしょうか?相手はあなたのことを理解できるでしょうか?

 HSPをアイデンティフィケーションするとは、実際には自分にも他人にもこのようなチグハグなことを行っています。

 結局のところ、自分の生きづらさに名前をつけることを自己理解とし、あるいは問題の入り口だとできる人は生きやすくなります。

 もし、自分はHSPなんじゃないかと思っている場合には、カウンセリングやセルフワークで、自分の環境感受性への傾向をうまく活用していく自分の取り扱い説明書をつくることを目指せるといいですね。


 

HSPとは

さて、ここからはHSPとは何か?そもそもの研究上の定義など解説をしておきます。

 HSPとは、ポジティブ・ネガティブ両方の環境刺激に対する処理や登録の仕方の個人差と定義されています(Aron&Aron,1997)。つまり、音楽の音量がある人には適度でもある人にはうるさく、小さく感じるという感じ方の違いです。こういった感覚に個人差があることはだれもが知っていることですよね。


 HSPとはただそれだけです。環境の刺激への反応のしやすさであって、HSP=生きづらさではないのです。よくも悪くも環境からの刺激に反応する傾向です。sensory processing sensitivity (SPS)環境感受性と呼ばれる傾向のことです。

 研究上は、感受性尺度の点数が○点以上はHSPと決められるものでもありません。人々の感受性の個人差の分布の中で、上位10〜30%の間を高いと定義しています(Lionetti et al., 2018; Pluess et al., 2018)。

 もちろん、先行研究ではHSPの感受性の高さと、うつ病はじめ精神疾患発症のリスクとの関連も指摘されています(Bakker and Moulding, 2012;Benham, 2006)。これは関連ということであって、HSPだからうつ病になるという直線的な関係ではありません。ただ、関連があるということだけです。

 その反対に、感受性の高さによりポジティブな恩恵もあります。例えば、カウンセリングなどの心理支援の恩恵を受けやすいという報告があります(Nocentini, 2018)。

 以上のような知見から、HSPの傾向は環境によりプラスにもマイナスにもなるということであって、よくカウンセリングなどでみなさんがお話されるような、HSP傾向が高いから「自分は一生生きづらいの決定!うつ病にもなる」みたいなことは、ないのです。


 ネット上では、環境感受性とその他の傾向を結びつけて、例えば○○型HSPやHSPうつなどの情報が溢れていますが、どれも単純に結びつけて考えているだけで、なんの根拠もありません。信じすぎないようにしましょう。

 単純な結びつけが起きるのは、研究上HSPの特徴をDOESにまとめることからくるのだと思います。DOESとは以下の頭文字をとっています。


Depth of processing (考えすぎてしまう)

Over stimulation (些細なことに驚く)

Empathy and emotional responsiveness(過剰な共感・感情移入)

Sensitivity to subtleties (感覚過敏)


 これらの特徴により、人の顔色を伺いすぎて疲れる、周りの人が怒られていると自分も怖くなってしまい疲れるという具体的な困りごとが発生し、その具体的な困りごとが他の疾患などの症状でもあるため、結び付けられてしまうといったからくりでしょう。

 また、HSP診断というサイトもたくさんありますがどれもAron&Aron(1997)が開発し、髙橋(2016)が作成した日本語版Highly Sensitive Person Scaleとは質問項目も測定方法も異なっています。どうしても自分の傾向を知りたい場合には、髙橋(2016)の開発した尺度を使用してください。(引用文献にリンクをはってあります)Aron博士の日本語版サイトには簡易版のセルフ診断ツールがありますが、こちらも簡易なものです。繰り返しになりますが、HSPは疾患ではないので、医学的な意味で診断することはできません。その傾向を知る、全体の分布の中での自分の位置を知ることができるだけです。また、HSPの質問項目への回答の傾向には文化差があり、文化差を考慮して開発されている髙橋(2016)のものを使用した方がいいでしょう。


 最後に繰り返しになりますが、HSPは環境への感受性の傾向であり、病気ではありません。また生きづらさを表した概念でもありません。HSPという傾向を自分の生きづらさの気づき、つまり問題解決の入り口として活用していこうとするあなたの態度こそがあなたの生き辛さを緩和する方向に導きます。


 東京中央カウンセリングでは、あくまでHSPは入り口として、あなたがどのようなことで生きづらいのか、探索し、あなたが少しでも生きやすくなるような方法を見つけるお手伝いをしていきます。HSPにこだわらず、一緒に生きづらさを緩和する出口を見つけたい方には喜んでお手伝いしていきます。



 

引用文献

Aron, E. N., & Aron, A. (1997). Sensory-processing sensitivity and its relation

to introversion and emotionality. Journal of Personality and Social

Psychology, 73, 345‒368.

Bakker,k., Richard Moulding(2012)Sensory-Processing Sensitivity, dispositional

mindfulness and negative psychological symptoms, Personality and Individual

Differences,53(3),341-346.

Grant Benham,(2006)The Highly Sensitive Person: Stress and physical symptom

reports, Personality and Individual Differences, 40(7),1433-1440.

Lionetti, F., Aron, A., Aron, E. N., Burns, G. L., Jagiellowicz, J., & Pluess, M.

(2018). Dandelions,tulips and orchids: Evidence for the existence of low-

sensitive, medium-sensitive and high-sensitive individuals. Translational

Psychiatry, 8, 24.

Nocentini A, Menesini E, Pluess M.(2018) The Personality Trait of Environmental

Sensitivity Predicts Children’s Positive Response to School-Based

Antibullying Intervention. Clinical Psychological Science.6(6),848-859.

Pluess, M. (2015). Individual differences in environmental sensitivity. Child

Development Perspectives, 9, 138-143.

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